これまで何度か、民生の印材を引き取ってもらえないかというお話をいただいています。長く大切にされてきた品だと思います。それでも恐れ入りますが、今回もお断りさせていただきました。
理由は品物にあるのではなく、鈴印の決めごとにあります。民生をお求めくださる方に関わることなので、ここに書いておきます。
象牙の印材は、決まった道を通って届きます

象牙の印材は、作り手であるメーカーから問屋へ、問屋から印章店へと渡り、印章店で彫られてお客様のもとへ届きます。
民生も同じです。象嵌師が仕上げた印材が、問屋を通って印章店に並びます。
つまり、どのルートをたどってきたかがはっきりしていれば、その印材の出処に迷いはありません。
マスターピースとデッドストックは、ルートの違いです

鈴印の民生は、すべてこのルートのどちらかから来ています。違いは、途中でほかの印章店を挟んだかどうかです。
- マスターピース:メーカーや問屋から、ほかの印章店を挟まずに鈴印へ届いた印材です。鈴印が長年ストックしてきたものを含め、すべて新品です。
- デッドストック:問屋からほかの印章店に届き、その店で彫られないまま眠っていた印材です。これも新品で、どの店から来たかが分かっています。
どちらも、どこを通って鈴印に来たかを、鈴印が自分で説明できる品です。
このルートの外から来た民生は、扱いません
一度お客様の手に渡ったものや、どこを通ってきたかが分からないものは、メーカー・問屋・印章店のルートから外れています。そうした民生は、鈴印の側で出処を確かめようがありません。
民生を選んでくださる方には、出処のはっきりしたものだけをお渡ししたい。そのため、このルート外から届く民生は、どなたからのお話でもお受けしていません。
これは品物の良し悪しを決めつけるものではありません。鈴印の決めごととして、線を引いています。
お手元に民生がある方へ

出処をたどれないからといって、その民生の価値がなくなるわけではありません。長く大切にされてきた印材は、それだけで持ち主の歴史を背負っています。
使わずにしまってある民生や、前の持ち主の名前が彫られた民生は、彫り直して使い続けることもできます。いただいた命を、もう一度暮らしの中で生かす方法です。
彫り直しのことは、読みもの「印鑑の彫り直しは、意思を継承すること」にまとめています。
最後に

民生の印は、作り手が現存しない素材です。
そのため、今後ますます希少になっていきます。
おそらく、これまでもこれからも、選ばれた方にしか手に入れることのできない、至極の名品です。
象牙という命からいただいた素材、そしてその命に全身全霊を込めて仕上げた印材です。
どうぞ、選ばれしあなたには、ぜひその価値と共に想いを継承し、末永くお使いください。
鈴印の民生の印材は、民生の一覧でご覧いただけます。マスターピースとデッドストックのページもあわせてどうぞ。民生を彫るときの手の感覚は「民生を彫るとき、手には何が起きているのか」に、ほかの象嵌師のことは「名工象嵌師の紹介」に書いています。
象牙についてもっと知りたい方へ
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